BtoB企業がECサイトを構築する際、最初に直面する重要な選択肢が「既存のカートシステムを活用するか」「フルスクラッチで独自開発するか」という決断です。この選択は、開発コスト、期間、機能性、将来の拡張性など、さまざまな側面に大きな影響を与えます。
本稿では、BtoB EC構築における「カートシステム vs. フルスクラッチ」の選択肢を比較し、それぞれのメリット・デメリットを分析します。結論からいえば、多くの場合において既存のカートシステムを活用するアプローチが賢明な選択となりますが、その理由と、最適なカートシステム選定のポイントについて詳しく解説します。
フルスクラッチ開発とは? 既存カートシステムとは?
フルスクラッチ開発とは?
フルスクラッチ開発とは、ECサイトをゼロから完全オーダーメイドで開発する方法です。自社の業務フローや要件に100%適合したECシステムを構築できるため、 「業務のデジタル化を最適化し、競争力を高めたい企業」 に向いています。
しかし、その分 開発コストや期間が膨大 になるというデメリットもあります。
既存カートシステムとは?
既存カートシステムは、EC機能がパッケージ化されたソフトウェアを活用し、必要に応じてカスタマイズする方法です。SaaS型やオープンソース型のECプラットフォームを導入することで、 「低コスト・短期間でECを開始したい企業」 に適しています。
ただし、 カスタマイズ性に制約がある ため、自社独自の業務要件に完全には対応できないケースもあります。
フルスクラッチ開発と既存カートシステムの比較
では、実際に「フルスクラッチ開発」と「既存カートシステム」を比較すると、どのような違いがあるのでしょうか?
以下の表に、それぞれのメリット・デメリットをまとめました。
項目 | フルスクラッチ開発 | 既存カートシステム |
---|---|---|
カスタマイズ自由度 | ◎ 完全な自由度があり、業務フローやUI/UXを独自に設計可能 | △ カスタマイズは可能だが、システム基盤の制約あり |
特殊な業務要件への対応 | ◎ 特殊な取引条件や基幹システムとの緊密な連携が可能 | △ 一般的なEC向けの設計で、BtoB特有の要件には対応しにくい場合がある |
将来的な拡張性 | ◎ 自社の方針に合わせて柔軟に機能追加・変更が可能 | ○ APIやプラグイン連携で拡張は可能だが、システム基盤の影響を受ける |
開発コスト | × 初期開発費が高額で、工数が膨大 | ◎ フルスクラッチの1/3〜1/5のコストで導入可能 |
開発期間 | × 2〜3倍以上の開発期間が必要(半年〜数年) | ◎ 標準機能が揃っており、短期間(3〜6ヶ月)で導入可能 |
保守・運用コスト | × 継続的なシステム改修・アップデートが必要 | ◎ ベンダーが保守・セキュリティ対策を提供 |
技術的負債のリスク | × 開発者の離職や技術陳腐化のリスクが高い | ○ ベンダー側で最新技術の対応が行われる |
EC業界トレンドへの追随 | × 新技術の導入や市場標準機能の追加には都度開発が必要 | ◎ ベンダーが自動的に最新機能を追加 |
ベンダーロックイン | ◎ 自社開発のため、ベンダー依存がない | × ベンダーに依存し、価格改定や撤退リスクがある |
他社との差別化 | ◎ 独自の機能やデザインで差別化が可能 | △ 同じプラットフォームを使うため、差別化が難しい |
導入の適性 | 大規模BtoB向け 特殊な要件が多く、独自性が求められる企業向け | 中小企業・短期間導入向け 標準機能で十分な企業や、すぐにECを始めたい企業向け |
具体的なケーススタディ
ケース1:フルスクラッチの失敗事例
大手製造業A社は、自社の複雑な商品体系と価格構造に合わせるため、フルスクラッチでECサイトを開発。当初予算1.5億円、期間1年の計画でしたが、実際には開発費が2.5億円に膨らみ、期間も1年8ヶ月に延長。さらに、システム完成後も定期的なバグ修正や機能改善に年間3,000万円以上のコストが発生。技術的負債も蓄積し、わずか3年後には大規模リニューアルが必要になりました。
ケース2:カートシステム活用の成功事例
同業界の製造業B社は、市場シェア上位のBtoB向けカートシステムをベースに、必要な機能のみをカスタマイズするアプローチを採用。初期開発費用8,000万円、期間5ヶ月でECサイトを立ち上げに成功。標準機能の活用により開発リスクを抑えつつ、APIを活用して基幹システムとの連携も実現。運用開始後もカートベンダーの定期アップデートにより新機能が追加され、運用コストは年間1,200万円に抑えられています。
ケース3:ハイブリッドアプローチの事例
工業部品メーカーC社は、カートシステムをベースとしつつ、特に重要な独自機能(複雑な価格計算エンジン)のみをカスタム開発するハイブリッドアプローチを採用。標準機能はカートシステムを活用しながら、自社の強みとなる部分に開発リソースを集中。結果として、市場投入までの期間を短縮しながらも、競合との差別化に成功しました。
カートシステムを選ぶべき明確な理由
様々な要素を検討した結果、多くのBtoB企業にとってカートシステムを活用するアプローチが最適な選択である理由は以下の通りです。

1. コストパフォーマンスの優位性
カートシステムはすでに多くの開発投資がなされた完成品であり、その開発コストを多数の利用企業で分散しています。フルスクラッチでは全てのコストを自社で負担する必要がありますが、カートシステムではその恩恵を受けられます。例えば、決済機能や会員管理、検索機能など、一から開発すると数千万円のコストがかかる機能が標準で利用可能です。
2. 市場投入までの時間短縮(Time to Market)
競争が激化するデジタル市場では、いかに早く顧客に価値を提供できるかが重要です。カートシステムを活用すれば、3〜6ヶ月程度で本格的なECサイトを立ち上げることが可能です。フルスクラッチの場合、同等の機能を実現するには一般的に1年以上を要するため、市場機会の損失やライバルへの後れを取るリスクが高まります。
3. 継続的な進化と運用コスト削減
EC業界は技術進化が速く、UX改善や新機能への対応が常に求められます。カートシステムでは、ベンダーが市場動向を見据えた継続的なアップデートを提供するため、自社でトレンド調査や機能開発に投資する必要がありません。結果として運用コストを大幅に削減でき、事業成長に応じた拡張性も確保できます。
4. リスク低減と確実性の向上
フルスクラッチ開発では要件定義の曖昧さや開発中の仕様変更、技術的課題など多くの不確実性が存在します。対してカートシステムは、すでに多くの企業で検証済みの安定したシステムであり、開発リスクが大幅に低減されます。特にEC未経験の企業にとって、この確実性は非常に重要な価値となります。
5. 専門的知見の活用
優れたカートシステムベンダーは、数多くのEC構築・運用経験から得られた専門的知見を持っています。この知見は単なるシステム機能だけでなく、コンバージョン率向上やユーザー体験最適化、効果的な運用方法など、ECビジネス成功のためのノウハウとして提供されます。フルスクラッチでは、こうした専門知識を一から獲得するコストと時間がかかります。
最適なカートシステム選定の難しさ
カートシステムを選択する方針が明確になっても、次の課題は「どのカートシステムを選ぶべきか」という点です。市場には多数のBtoB向けカートシステムが存在し、それぞれに強みと弱みがあります。以下の理由から、最適なカートシステム選定は非常に複雑で難しい判断となります。

1. 市場に溢れる選択肢
BtoB向けECカートシステムは国内外合わせて数十種類存在し、それぞれが独自の強みをアピールしています。表面的な機能比較だけでは本当に自社に合ったシステムを見極めることは困難です。
2. 業界特性と要件の多様性
業種・業態によって求められる機能は大きく異なります。例えば、製造業と卸売業では必要な機能セットが異なり、さらに取引規模や商品特性によっても最適解が変わります。
3. 見えにくい「真の導入コスト」
カートシステムのライセンス費用だけでなく、カスタマイズ費用、連携開発費用、運用コスト、将来的なアップグレード費用など、総合的なコスト把握が難しい面があります。
4. 将来的な拡張性・柔軟性の評価
現在の要件だけでなく、3〜5年後のビジネス成長や市場変化に対応できるシステムかどうかの判断は専門知識が必要です。
5. 技術的互換性と連携の複雑さ
既存の基幹システムやCRM、在庫管理システムなどとの連携可能性や、その難易度・コストの評価には専門的な知見が必要です。
選定プロセスと専門家への相談の重要性
こうした複雑な判断を適切に行うためには、体系的な選定プロセスと専門家のサポートが不可欠です。
1. 要件の明確化と優先順位付け
自社のビジネスモデルやプロセスを詳細に分析し、「必須機能」「あれば望ましい機能」「将来的に必要となる機能」を明確に区分することが第一歩です。しかし、EC未経験の企業にとって、何が本当に重要な機能なのかを見極めることは容易ではありません。
2. 市場調査と候補の絞り込み
数多くのカートシステムの中から自社要件に合致する候補を絞り込むには、各システムの特性や得意分野を深く理解する必要があります。表面的な情報だけでは、実際の適合性を判断することは困難です。
3. 詳細評価と比較検討
絞り込んだ候補に対して、機能面、コスト面、拡張性、サポート体制など多角的な評価を行います。この際、各システムの「見えない弱点」や「隠れた強み」を把握することが重要ですが、ベンダー提供資料だけではこうした情報を得ることは難しいでしょう。
4. 専門家への相談の価値
このような複雑な選定プロセスにおいて、BtoB EC構築の専門知識と豊富な経験を持つ専門家のアドバイスは非常に価値があります。専門家は以下のような支援を提供できます:
- 多数のカートシステム導入実績に基づく客観的評価
- 業界特性を踏まえた最適なシステム推奨
- 見落としがちな重要機能の指摘
- 真の導入コストと期間の現実的な見積り
- 基幹システム連携の実現可能性評価
- 将来的な拡張性を見据えたアドバイス
まとめ:カートシステム選択と専門家相談の重要性
BtoB EC構築において、ほとんどの企業にとって、フルスクラッチ開発よりもカートシステムを活用するアプローチが優位であることは明らかです。開発コストと期間の大幅削減、市場検証済みの機能活用、継続的なアップデート、リスク低減など、多くのメリットがあります。
しかし、数多くのカートシステムから自社に最適なものを選定することは、EC構築経験の少ない企業にとって非常に難しい判断です。不適切なシステム選定は、後になって大きなコスト増加や機会損失につながる可能性があります。
そのため、カートシステムの選定においては、豊富な導入実績と専門知識を持つコンサルタントへの相談が強く推奨されます。私たちのような専門家のサポートを受けることで、貴社のビジネスモデルや業界特性、将来計画に最適なカートシステムを選定し、スムーズかつ成功するEC導入を実現することができます。
フルスクラッチ開発の誘惑に駆られる前に、まずは専門家に相談し、カートシステム活用による効率的かつ効果的なEC構築の可能性を探ってみることをお勧めします。適切なシステム選定と戦略的な導入計画が、御社のデジタル変革成功の鍵となるでしょう。