BtoB ECシステム選定の難しさと重要性
BtoB(企業間取引)のEC(電子商取引)システム導入を検討する際、多くの企業が直面するのが「どのシステムを選ぶべきか」という難題です。市場には数多くのECプラットフォームが存在し、それぞれに特徴や強みがあります。さらに、BtoB取引特有の複雑さを考慮すると、適切なシステム選定は企業のデジタル変革の成否を左右する重要な意思決定となります。
この記事では、BtoB ECシステム選定において特に注目すべき5つの重要ポイントを解説します。この5つのポイントを押さえることで、自社のビジネスモデルに最適なECシステムを選定するための指針となるでしょう。
ポイント1:BtoB特有の取引機能への対応力
BtoB取引はBtoC(企業対消費者)取引と比較して、はるかに複雑な取引構造を持っています。システム選定の第一のポイントは、こうしたBtoB特有の取引機能にどれだけ対応しているかという点です。

顧客別価格設定と管理機能
製造業や卸売企業のBtoB取引では、同じ商品であっても取引先によって価格交渉をするため、取引価格が異なるケースが多くあります。BtoB取引で、重要な評価ポイントとして、下記の機能があるものを選択しても良いかもしれません。もちろん、導入の目的によって機能過多や機能不足になるケースもありますので、自社で何を実現したいか整理したうえで、機能を見てみましょう。
- 取引先ごとの個別価格設定機能
- 価格グループ(ゴールド会員、シルバー会員など)による階層的管理
- 数量別価格設定(ボリュームディスカウント)
- 価格改定の一括処理機能
- 特別価格や期間限定価格の設定機能
承認ワークフロー機能
また、個々の注文に対して社内承認を必要とする商品もあります。例えば、高額商品や別途設計や提案を要する商品の場合、そのまま購入するのではなく、社内商品フローが存在することが多いため、これに対応する機能が必要です。
あくまで一例として、チェックポイントを列挙します。
- 複数階層の承認フロー設定
- 金額に応じた承認者の自動振り分け
- 承認状況の可視化・通知機能
- 代理承認機能
- 一括承認機能
見積機能と注文連携
複雑な商品構成や特別価格が必要な場合に対応する見積機能も重要です。
重要な評価ポイント:
- オンライン見積依頼・作成機能
- 見積から発注へのスムーズな連携
- 見積履歴の管理・検索機能
- 見積有効期限の管理
- 条件交渉機能
契約管理との連携
継続的な取引や定期発注に対応する契約管理機能も確認しましょう。
重要な評価ポイント:
- 継続契約・定期発注の管理
- 契約条件(納期・支払条件など)の管理
- 契約更新通知・管理機能
- 契約に基づく自動発注機能
実装方式に関する考慮点
これらのBtoB特有機能は、ECシステムによって「標準機能」「アドオン/プラグイン」「カスタマイズ開発」のいずれかで提供されます。
選定時のポイント:
- 標準機能として提供されている項目が多いほど安定性・コスト面で有利
- アドオン/プラグインの場合、将来のバージョンアップへの対応を確認
- カスタマイズ開発が必要な場合、開発コストと期間を慎重に見積もる
ポイント2:基幹システムとの連携容易性
BtoB ECシステムは単独で機能するのではなく、既存の基幹システム(ERP、在庫管理、生産管理、会計システムなど)との円滑な連携が不可欠です。システム間連携の容易さは、導入コスト・期間や運用効率に大きく影響します。

連携アーキテクチャの柔軟性
重要な評価ポイント:
- 標準APIの充実度(REST API、SOAP APIなど)
- WebHookやイベント駆動型連携への対応
- データ連携ミドルウェア(iPaaSなど)との親和性
- バッチ処理とリアルタイム連携の両方に対応
実例からの教訓:
機械部品メーカーC社は、APIが貧弱なECシステムを選択したため、基幹システムとの連携開発に予想の3倍のコストと時間がかかりました。一方、十分なAPI機能を持つシステムを選んだ競合D社は、半分の期間で連携を完了し、市場投入で大きなアドバンテージを得ました。
主要連携項目への対応
連携が必要な主要データ項目についての対応を確認しましょう。
重要な評価ポイント:
- 商品マスター連携(商品情報、価格、在庫)
- 顧客マスター連携(企業情報、担当者情報、与信情報)
- 受注データ連携(受注→出荷→請求→入金の流れ)
- 在庫データのリアルタイム連携
- 価格マスター・価格計算ロジックの連携
連携実績と専門性
システムベンダーの連携実績と専門性も重要な判断材料です。
重要な評価ポイント:
- 自社が使用している基幹システムとの連携実績
- 同業他社での導入・連携事例
- 連携開発のための技術ドキュメントの充実度
- 連携支援のための専門チームの有無
将来の拡張性
将来のシステム拡張や変更に対応できる柔軟性も重要です。
重要な評価ポイント:
- マイクロサービスアーキテクチャへの対応
- Headless Commerce(フロントエンドとバックエンドの分離)対応
- 新たなシステム追加時の連携容易性
- API versioning(バージョン管理)への対応
連携方式の選択肢
基幹システムとの連携方式には複数の選択肢があり、それぞれメリット・デメリットがあります。
一般的な連携方式:
- リアルタイムAPI連携: 即時性が高いが、システム負荷も高い
- バッチ処理による定期連携: システム負荷は低いが、リアルタイム性に欠ける
- ミドルウェアを介した連携: 柔軟性が高いが、追加コストが発生
- データベース直接連携: 高速だが、セキュリティやシステム安定性のリスクがある
自社の業務特性(リアルタイム性の要否など)に合わせた連携方式を選択できるシステムが理想的です。
ポイント3:カスタマイズと拡張の柔軟性
BtoB取引の複雑さと多様性を考えると、どんなに優れたECシステムでも、そのままで100%自社要件に合致することは稀です。したがって、カスタマイズや拡張の柔軟性は重要な選定ポイントとなります。

カスタマイズ性の度合い
重要な評価ポイント:
- プログラムコードレベルのカスタマイズ可否
- テンプレートやテーマによるデザイン変更の容易さ
- 管理画面のカスタマイズ可能範囲
- カスタムフィールドの追加・拡張性
- ビジネスロジック(価格計算など)のカスタマイズ柔軟性
実例からの教訓:
化学品メーカーE社は、堅牢だがカスタマイズ性の低いECシステムを導入。業界特有の製品安全データシートの管理機能や、複雑な出荷制限ルールが実装できず、結果的にシステムの入れ替えを余儀なくされました。
拡張機能とプラグイン・アドオン
重要な評価ポイント:
- サードパーティ製プラグイン・アドオンの充実度
- マーケットプレイスやエコシステムの規模
- プラグイン開発のためのフレームワーク整備
- 拡張機能のバージョンアップ対応
実例からの教訓:
工具卸売F社は、豊富なプラグインエコシステムを持つECプラットフォームを採用。高度な検索機能や在庫最適化機能などを追加開発せずに導入でき、初期コストを40%削減できました。
開発言語・技術スタック
システムの技術的基盤も重要な選定ポイントです。
重要な評価ポイント:
- 使用されている開発言語・フレームワーク
- 社内IT部門のスキルセットとの適合性
- 開発者市場での人材の豊富さ
- 技術の最新性と将来性
バージョンアップへの対応
カスタマイズしたシステムのバージョンアップ対応も確認すべき重要事項です。
重要な評価ポイント:
- カスタマイズ部分のバージョンアップ時の影響度
- バージョンアップ時の検証プロセスの容易さ
- バージョンアップサポートの充実度
- 過去のバージョンアップ実績とスムーズさ
カスタマイズアプローチの選択肢
カスタマイズには様々なアプローチがあり、それぞれ影響範囲が異なります。
一般的なカスタマイズアプローチ:
- 設定ベースのカスタマイズ: システムの設定変更のみで実現(最も安全)
- テンプレート・テーマの変更: 見た目の変更が中心(比較的安全)
- プラグイン・アドオンの追加: 機能拡張(やや影響範囲大きい)
- コアコードの改変: システム中核部分の変更(最もリスクが高い)
バージョンアップの容易さとカスタマイズの自由度はトレードオフの関係にあるため、自社の優先順位に合わせた選択が必要です。
ポイント4:セキュリティと信頼性
BtoB取引では、取引金額が大きく、企業間の機密情報も扱うため、セキュリティと信頼性は特に重要な選定ポイントとなります。

セキュリティ対策
重要な評価ポイント:
- 情報セキュリティ認証(ISO27001など)の取得状況
- PCI DSSコンプライアンス(決済セキュリティ)
- 多要素認証の実装
- IPアドレス制限などのアクセス制御
- 暗号化通信(SSL/TLS)のレベル
- 脆弱性診断・セキュリティテストの実施状況
実例からの教訓:
電子部品ディストリビューターG社は、セキュリティが不十分なECシステムを導入したことによるデータ漏洩事故を経験。取引先の信頼を回復するのに1年以上かかり、売上に大きな影響がありました。
システム信頼性と可用性
重要な評価ポイント:
- SLA(Service Level Agreement)の内容(稼働率保証など)
- 冗長化・バックアップ体制
- 障害発生時の対応体制と復旧時間
- 負荷分散・スケーラビリティ
- 過去の障害発生状況と対応実績
実例からの教訓:
建材商社H社は、年末の繁忙期にシステムダウンを経験し、2日間の受注ができず大きな機会損失が発生。その後、99.99%の稼働率を保証するクラウドベースのECシステムに移行し、安定運用を実現しています。
データ保護とプライバシー対応
重要な評価ポイント:
- プライバシーポリシーの内容と遵守状況
- 個人情報保護法や各国法令への対応状況
- GDPR対応(欧州との取引がある場合)
- データ保持ポリシーの明確さ
- データセンターの所在地と法的管轄
監査証跡と内部統制
BtoB取引では内部統制も重要な要素です。
重要な評価ポイント:
- ユーザー操作の監査証跡(Audit Trail)
- 権限管理の粒度と柔軟性
- 不正検知機能
- 内部統制報告(J-SOXなど)への対応
- レポーティング機能の充実度
クラウドとオンプレミスの選択
ECシステムの提供形態として、クラウド(SaaS)とオンプレミスの選択肢があります。
選択のポイント:
- クラウド(SaaS)型: 初期コスト低、運用負担少、スケーラビリティ高、バージョンアップ容易
- オンプレミス型: データ管理の自由度高、長期的なコスト効率、カスタマイズ自由度高
セキュリティ面では一概にどちらが優れているとは言えず、具体的な実装や運用体制による部分が大きいため、詳細な評価が必要です。
ポイント5:サポート体制と将来性
ECシステムは一度導入したら終わりではなく、長期的な運用と進化が必要です。そのため、システムベンダーのサポート体制や将来性も重要な選定ポイントとなります。

サポート体制の充実度
重要な評価ポイント:
- サポート時間帯(24時間対応か、営業時間内のみか)
- サポート方法(電話、メール、チャットなど)
- 日本語サポートの有無(海外製品の場合)
- 障害時の対応フロー
- サポート料金体系
- マニュアル・ドキュメントの充実度
実例からの教訓:
医療機器商社I社は、サポート体制が不十分な海外ECシステムを導入したところ、稼働後の運用で困難に直面。時差によるサポート対応の遅れや、日本語ドキュメントの不足により、社内での運用負担が想定の3倍になりました。
ベンダーの安定性と将来性
重要な評価ポイント:
- 企業規模と財務状況
- 市場シェアと成長率
- 業界内での評判
- 製品開発への投資状況
- 過去のバージョンアップ頻度と内容
実例からの教訓:
自動車部品メーカーJ社は、スタートアップ企業の革新的なECシステムを採用しましたが、2年後にそのベンダーが経営破綻。システム移行を余儀なくされ、多大なコストと時間を要しました。
ロードマップとビジョン
重要な評価ポイント:
- 製品ロードマップの明確さと具体性
- 新技術への対応計画(AI、モバイル、IoTなど)
- グローバル展開への対応
- 業界特化機能の開発方針
- ユーザーコミュニティの活発さ
導入・運用支援体制
重要な評価ポイント:
- 導入コンサルティングの質と範囲
- トレーニングプログラムの充実度
- 導入実績と業界知見
- パートナーエコシステムの充実度
- 運用支援サービスの有無と内容
総所有コスト(TCO)の見極め
初期導入コストだけでなく、長期的な総所有コスト(TCO)も重要な判断材料です。
TCO構成要素:
- 初期導入コスト(ライセンス/開発/設定)
- 運用コスト(保守/サポート/インフラ)
- アップグレードコスト
- トレーニングコスト
- 内部リソースコスト
5年間のTCOで比較することで、より正確な投資判断が可能になります。
システム選定プロセスの進め方
最後に、BtoB ECシステム選定を効果的に進めるためのプロセスを紹介します。

1. 要件の明確化と優先順位付け
- 現状の業務フローを詳細に分析
- 「必須要件」と「あれば良い要件」を明確に区分
- 部門横断チームによる要件の洗い出し
- 定量的な評価基準の設定
2. 市場調査と候補の選定
- RFI(情報提供依頼書)の作成と配布
- 業界セミナーやユーザー会への参加
- 同業他社や関連業種の導入事例調査
- 5〜7社程度の候補リストアップ
3. 詳細評価と比較
- RFP(提案依頼書)の作成と配布
- デモンストレーションの実施
- PoC(概念実証)の実施(必要に応じて)
- 評価マトリクスによる総合評価
- 最終候補2〜3社への絞り込み
4. 最終選定と契約交渉
- 参照サイト訪問や導入企業インタビュー
- 総所有コスト(TCO)の検証
- 契約条件の交渉(SLA、バージョンアップ、サポート範囲など)
- 導入計画の確認と合意
まとめ:最適なBtoB ECシステム選定のために
BtoB ECシステム選定は、単なるIT投資ではなく、企業の中長期的な競争力に直結する戦略的決断です。本稿で解説した5つのポイント(BtoB特有機能、基幹システム連携、カスタマイズ柔軟性、セキュリティ・信頼性、サポート・将来性)を押さえた選定プロセスを実行することで、自社のビジネスモデルに最適なシステムを見極めることができるでしょう。
重要なのは、現時点の要件だけでなく、3〜5年先のビジネス展開を見据えた選定を心がけることです。EC分野は技術進化が速く、一度導入したシステムは長期にわたって使用することになるため、将来の拡張性や進化への対応力も重視すべきポイントです。
また、システム選定は社内のIT部門だけの問題ではなく、営業、マーケティング、物流、カスタマーサポートなど、様々な部門が関わる全社的なプロジェクトとして取り組むことが成功の鍵となります。
適切なBtoB ECシステムの選定と導入により、効率的な受発注処理だけでなく、顧客体験の向上、データ活用による営業力強化、新たなビジネスモデルの創出など、多面的な競争優位性を獲得することができるでしょう。