BtoB ECは「作れば売れる」市場ではない。システム選定で失敗しないための「事業目的の整理」と「商流設計」の全貌

日本のBtoB EC市場は規模も大きく、今後も成長余地があることは間違いありません。多くの企業がBtoB ECへの参入やシステムリニューアルを検討しています。

しかし、BtoB ECはBtoC(一般消費者向けEC)とは根本的にルールが異なります。「市場が伸びているから、ECサイトを作れば売れるはずだ」という発想で高額なシステムを導入した結果、「現場の業務フローに合わない」「既存の取引先が使ってくれない」といった失敗に陥る企業が後を絶ちません。

本記事では、2026年6月11日に開催されたウェビナー「BtoB ECは”どう作るか”で成果が決まる 商流設計とカートシステム選定の考え方」より、製造業・卸売業のBtoB商流DXに特化して伴走支援を行う株式会社ウキヨ 代表取締役・吉岡大輝氏の講演内容を余すことなくお届けします。

私たちは、BtoB ECの成否を分けるのはシステムの優劣ではなく「事業の設計」だと考えています。だからこそ、選定ノウハウだけではなく、一社一社の事業の文脈に向き合いたいと考えています。

1. BtoB ECにおける最大の誤解 「作れば売れる」わけではない

BtoC ECの世界では、「集客 → カート → 決済」というWeb完結型の購買体験が、直線的かつシンプルに成立します。

しかし、BtoB取引では「衝動買い」がほとんど発生しません

もちろん例外はあります。文房具や消耗品といった間接材のように「今すぐ必要だから買う」商材であれば、BtoCに近い購買行動が成立することもあります。しかし、多くの企業が扱う商材はそうではありません。実際のBtoB取引は、次のような複雑なサイクルを経て成立します。

  • 初回取引までの流れ: 問い合わせ → 営業・商談 → 相見積もり → 受注。初見の問い合わせがそのまま発注に直結することは稀で、営業担当者による提案活動を経て初めて取引が始まります。
  • 取引開始後の流れ: 関係性が構築された後に、リピート発注やEC経由での継続発注へと移行していきます。

つまり、BtoBにおけるECサイトは単なる「販売チャネル」ではありません。新規顧客にとっては「問い合わせ・引き合いの入口」、既存顧客にとっては「受発注のインフラ」として機能するものです。

この前提を理解せず、BtoCと同じ感覚で「綺麗なカート付きサイト」を構築してしまうと、BtoB特有の取引慣行や営業プロセスを網羅できず、システムそのものが形骸化してしまうリスクがあります。

2. あなたの目的はどっち?「法人顧客の獲得」と「商流構築」の二択

吉岡氏は、BtoB ECを検討する企業の目的は大きく二つのまったく異なる方向性に分かれると指摘します。この二つは似ているようで、ECに必要な機能も取り組み方もまるで異なります。目的を曖昧にしたままシステム選定に入ることこそが、BtoB EC構築における最大のリスクです。

【自社の目的によるアプローチの違い】

▶ 法人顧客を増やしたい ─── ECの役割:法人向けの「窓口・きっかけ」
▶ 商流を作りたい     ─── ECの役割:取引の「インフラ」

① 法人顧客を増やしたい(新規開拓・販路拡大)

  • 対象となる企業の例: 卸展開を始めるD2Cブランド、従来は一般消費者向けだったがオフィス向け販売を強化したい家具メーカー、ホテルチェーンへのアメニティ採用を提案する企業など。
  • 特徴: 性質としてはBtoCに近い部分もありますが、ECだけで受注が完結するケースは少なく、Webから入ってきたリード(引き合い)をいかにスムーズに問い合わせ → 商談 → 提案という営業プロセスへ橋渡しできるかが成果を左右します。
  • 重要要件: 営業の効率化、顧客管理(CRM)との連携、小口取引の自動処理など。

② 商流を作りたい(既存取引のデジタル化・供給網の構築)

  • 対象となる企業の例: 上流工程の製造業・卸売業、代理店網を展開する工業用資材メーカーなど。
  • 特徴: 最終消費者へ商品を届ける流通網そのものを構築・デジタル化する考え方で、BtoB2C・BtoB2B2Cといった供給網の拡張も含まれます。取引先の発注担当者が「在庫が減ったら再発注する」というサイクルを繰り返すため、見た目の美しさ(UI/UX)よりも、商品の探しやすさ・発注のしやすさ・業務効率、そして自社の業務フローや基幹システムとのデータ整合性が最優先されます。
  • 重要要件: 取引先ごとの価格条件(掛率・個別単価)、複雑な社内承認フローの再現、基幹システム(ERP)連携など。

両者を組み合わせる戦略も

なお、これは二者択一なものではありません。BtoBに参入するとロットサイズが大きく変わります。一般消費者向けでは1個・2個だった発注が、法人取引では100個・1,000個になることもあります。その結果、仕入れ・製造ボリュームの拡大によって原価を下げ、事業全体の利益率向上につなげられるため、「法人顧客の拡大」と「商流構築」を段階的に組み合わせていくケースも多く存在します。

3. そもそも「本格的なBtoB EC」が不要なケースもある

私たちが一貫してお伝えしているのは、「システムから選ぶのではなく、目的から選ぶ」という原則です。事業の目的を突き詰めると、場合によってはBtoB EC自体が不要という結論もあり得ます

  • 大口受注が中心であれば、本格的なECではなく「法人向けの受注窓口(問い合わせ・見積依頼フォーム)」だけで十分かもしれません。
  • 一方、法人顧客の獲得を第二の事業の柱に育てたいのであれば、集客機能や決済機能を備えた本格的なBtoB ECが必要になります。
  • 既存取引のデジタル化(商流構築)を進める場合には、ECという形にこだわらず、WebEDIなども含めた受発注フロー全体を視野に入れて設計する必要があります。

「何を導入するか」の前に「事業をどうしたいか」。この順番を間違えないことが、投資判断の精度を大きく左右します。

4. 既存事業(BtoC)との関係性をどう設計するか

すでにBtoCのECサイトを運営している企業がBtoBへ参入する場合、既存事業との関係をどう位置づけるかも重要な戦略論点です。大きく二つのモデルがあります。

BtoCと「共栄」するモデル

  • 事例: 飲食店向けに卸展開も行う食品系D2Cブランドなど。
  • メリット: ①仕入れボリューム拡大による原価低減(利益率改善)、②BtoBの定期発注が、季節変動の激しいBtoCの在庫リスクを吸収。
  • ポイント: 商品展開や在庫管理、ブランドの見せ方をBtoC/BtoB横断で設計する。法人向け「窓口」としての活用が中心であれば、既存ECと共存する形でも十分機能します。

法人取引に「最適化」するモデル

  • 事例: 代理店網をデジタル化する工業用資材メーカーなど。
  • メリット: 既存のBtoCシステムとは切り離して構築(分離モデル)することで、BtoB特有のディープな要件に徹底的に対応できる。
  • ポイント: 複雑な承認フロー、大量SKUの商品マスタ管理、特殊な配送条件(温度帯・荷姿など)、基幹システムとのデータ連携に特化する。卸取引や商流構築を本格化する場合は、法人向け専用設計が必要になるケースが多くなります。

5. 豊富なカートシステムの選択肢。ただし「目的」から選ぶ

BtoB用途のECを構築できるカートシステムには、多くの選択肢が存在します。

Aladdin EC Bcart CO-NECT ebisumart ec being BtoB ecWorks makeshop TS-BASE 受発注 サブスクストアB2B shopify plus スマレジEC B2B メルカート など

それぞれ標準機能・カスタマイズ性・得意分野が異なります。だからこそ、「知名度が高いから」「他社が使っているから」とシステムから選ぶのではなく、目的から逆算して選ぶことが重要です。

では、「法人顧客を増やしたい企業」と「商流を作りたい企業」では、具体的にどの機能を重視すべきなのでしょうか。講演で示された比較観点を、そのまま公開します。

【徹底比較】目的に応じて重視すべき機能・特長

比較軸法人顧客を増やしたい商流を作りたい
ECの役割問い合わせ・引き合いの入口。Webだけで受注完結するケースは少なく、営業プロセスへの橋渡しが主な機能取引のインフラ。既存取引先の受発注をデジタルに置き換え、業務効率化とデータ蓄積を担う
UI/デザイン重要。初見の法人担当者に信頼感と商品理解を与えるため、BtoCに近い訴求力のあるデザインが求められるデザイン性よりも業務フローとの連携性が優先。発注担当者が迷わず・速く処理できる操作性が最重要
価格設定一律価格 or ボリュームディスカウント程度で対応可能なケースが多い取引先ごとの掛率・個別単価・支払条件(掛け払い・締め日等)を柔軟に設定できる仕組みが必須
顧客管理・CRM連携極めて重要。相見積もりや商談が前提のため、問い合わせ→商談→受注の営業プロセスを管理し、CPAを最適化する設計が必要取引先マスタの管理が中心。与信管理、取引条件の管理、担当者の権限設定など、取引の「枠組み」を管理する機能が求められる
商品情報の粒度BtoCに近い商品情報(商品名・画像・スペック・価格)で対応可能な場合が多い規格・ロット単位・リードタイム・互換性・荷姿・温度帯など、BtoB特有の属性情報を網羅的に管理する商品マスタが不可欠
受注フローカート→決済のシンプルなフローで成立しやすい。見積依頼フォームの設置が有効見積依頼→見積回答→社内承認→発注→受注確認→在庫引当→出荷指示といった多段階フローへの対応が必要
決済・与信クレジットカード、請求書払い(Paid・NP掛け払い等の決済代行)で対応可能既存の取引条件に合わせた掛け払い・月末締め翌月払い等を自社管理する仕組みが必要。与信枠の設定・管理も求められる

同じ「BtoB EC」という言葉で括られていても、7つの比較軸すべてにおいて要求される機能がまったく異なることが分かります。自社の目的がどちらに近いのかを定義しない限り、この表は使えない。逆に言えば、目的さえ定まれば、システム選定は要件の照合作業に変わります。

6. 実は最大の難所は「システム構築」ではなく「社内整理」

数多くの支援実績の中で目の当たりにしてきたのは、システムを作った後に「現場の運用に合わない」と気づく失敗パターンです。逆に、事前の整理によって大きな失敗を未然に防げたケースも多くあります。

特に商流構築型では、取引先企業ごとに掛率・価格条件・業務フロー・配送フローがすべて異なります。BtoB EC構築でつまずきやすいポイントを挙げると、次の3つに集約されます。

  1. 社内整理の曖昧さ: 承認フローが部署や担当者ごとに暗黙知化しており、「誰が・どの条件で・何を承認するか」を言語化できていない。
  2. データ整備の壁: 商品マスタやSKU管理のルールが統一されておらず、システムに載せる前のデータクレンジングに想定以上の工数がかかる。
  3. 理想と現実のギャップ: 理想のシステム像を先に描いてしまい、現状の業務オペレーションとの差分を埋める計画がないまま構築が進む。

つまり、「社内整理」そのものが、システム構築よりも前に立ちはだかる最大の難所なのです。理想を描く前に、現状の業務を可視化し、ギャップを洗い出すこと。地味ですが、ここを丁寧にやり切れるかどうかが成否を分けます。

7. 失敗を避けるための「推奨導入プロセス」3ステップ

ここまでの内容を踏まえた、推奨する進め方は非常にシンプルです。

  1. 【Step 1】事業計画・目的整理 なぜBtoB ECをやるのか、何のために作るのか、目標は何かを定義します。その際、BtoB単体のROIが成立するかだけでなく、BtoC事業への相乗効果(事業インパクト)も含めて投資対効果を推し量ることがポイントです。
  2. 【Step 2】商流・業務フロー整理 既存の取引条件や見積・承認・配送フローを可視化します。取引先の開拓フェーズだけでなく、取引開始以後の拡張フェーズまで想定しておくことが重要です。
  3. 【Step 3】システム選定・構築 整理された要件に基づいて、初めて自社に最適なシステムを比較・選定します。BtoB ECの実務的な比較情報は世の中にあまり出回っていないため、知名度や相見積もりの金額だけで選ばないよう注意が必要です。

まとめ 

本記事では、カートシステムの比較観点まで含めて、講演内容をすべて公開しました。

BtoBは業界ごと・商品ごと・顧客ごとに商流がまったく異なり、「あなたの会社の目的と商材・業界特性」に当てはめて初めて、最適なシステム要件が変わってきます。

株式会社ウキヨは、製造業・卸売業のBtoB商流DXに特化し、事業戦略の立案から受発注のオンライン化、データ統合、AIによるマーチャンダイジング高度化まで一気通貫で伴走支援を行っています。

優れた製品で築いた信頼が、アナログな受注業務の摩擦で削られていく。そんな構造を変え、正直に事業と向き合う事業者の発展に貢献することが、私たちの事業の原点です。

  • 「BtoB ECの方向性がまだ定まっていない」
  • 「自社の複雑な業務フロー(承認・掛率・配送条件)をデジタル化できるか不安」
  • 「検討しているカートシステムが本当に自社に合うか、セカンドオピニオンが欲しい」

といった企業担当者様に向けて、30分〜1時間程度の無料「壁打ち相談」を実施しています。システムの相談だけでなく、事業そのもののご相談やセカンドオピニオンでも構いません。本記事の比較表を眺めながら「うちはどっちだろう?」と考えるところから、一緒に整理させてください。まだ具体的な計画が決まっていない段階でのご相談も大歓迎です。